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とりあえずよろず。
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だいぶ遅くなりましたが;かきさんより御題頂きました、「陽だまり」でございます。光、木漏れ日、窓、水に反射する光、色を映すステンドグラス、午後のひととき、穏やかな時間、休息…できるだけ、かきさんの陽だまりイメージを盛り込ませて頂いたつもりです。甘くはないけれど、それなりに彼らなりに幸せなのではないかと思いますが…如何でしょうか。
御笑覧くだされば幸いです。





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ふわりと入り込んできた風がカーテンを揺らして、オラクルは顔を上げた。
窓から差し込む白い日が真っ直ぐに差し込んで、磨かれたフローリングの上に眩しく光を投げ出している。
反射した光に目を刺されて、オラクルは眉をしかめた。数時間ぶりにパソコンのディスプレイから目を放し、軽く眉間の辺りを揉んでやる。時計を見上げるとまだ正午を過ぎたばかりだ。

少し、疲れてきているかもしれない。

意識してみれば腕や肩も随分とだるい。作業を始めて数時間、休憩すら取っていないのだから当然だろう。やっとかよ、と眉をしかめる相棒の顔がふと浮かんでオラクルは苦笑した。集中しだすと周りが見えなくなるのはいつものことで、彼にはそれが危なかしく見えるらしい。
ここ数日かかりきりの絵は、完成まで幾許かを残して行き詰ったままだ。色を重ねても効果を変えても思うようにはならなくて、行き先を見失ったようなもどかしさばかりが積もってゆく。
ゆらゆらとまたカーテンが揺れて、柔らかい風が今度はオラクルまで届く。優しく頬を撫でるその感触にため息をひとつ。
「散歩にでも、行ってみるかな…」

其処此処に落ちる木漏れ日が、つま先でも踊っている。街路樹の下を歩くとさわさわと緑が揺れる音が聞こえた。日は暖かいけれどまだ風は少し冷たいくらいで、かえってそれが清々しい。
公園の真ん中では、噴水が輝いていた。飛び散った水滴に光が反射して、まるで水晶のかけらを散らしているようだ。明るさに溢れたその景色がどこか御伽めいているのは、普段其処此処にいる幼い子供やその母親たちが今日は居らず、不思議な程がらんと空いているからだろう。
張り出した梢が生み出す木陰に心惹かれて、公園の端、噴水からは少し離れた場所のベンチを選んでオラクルは腰を下ろした。程よく眩しさが和らげられた其処はひんやりと涼しく、思ったとおりの心地よさをオラクルに提供してくれた。
目を閉じて深く息を吐く。
自然、力が抜けてゆくのを感じた。
見上げると、何層もに重なった新緑が、濃く薄く色を重ね光を透かし、淡い緑色を映している。
(ステンドグラスみたいだ)
とても綺麗だ、とオラクルは思った。
葉と葉の隙間からちらちらと光が零れている。風に揺れ、囁くような葉擦れの音を伴って。その更に奥に、雲ひとつない青空が視える。
何てことのない風景だ。この季節、きっと晴れた日なら何処ででも見ることがでじるような。けれど、とてもうつくしい。
見せてやりたい、と思った。
この、うつくしいものを。この一瞬を切り取って手渡したい。もしできることならば。
もう一度、瞼を閉じる。血の色を透かし紅く染まる視界で、風と風に揺れる葉陰に合わせて瞼の裏でも光が踊る。
じゃり、と土を踏む音がして、影が差した。
目を開けた一瞬、逆光に容貌を瞳が捉え損なう。けれど、それでもその人のカタチを間違えることは決してない。目を眇めながら、ああ、とオラクルは声を上げた。
「何だ、お前か」
「何だはねーだろ。こんなとこで寝てんじゃねぇよ」
「こんなとこで寝たりしないよ。失礼な」
「やりかねないんだよ」
どうだか、と笑う顔はつい今しがた思い描いたばかりのものだ。
思わぬ偶然に、オラクルはひっそりと笑みを零す。
「何、散歩?」
「あー、うん、まぁ」
ちびのお迎えには少し早い。何か云いにくそうにオラトリオは言葉を濁した。
にやりと悪戯めかして笑う。
「多分、お前と一緒なんじゃね?」
仕事に煮詰まって彷徨い出てきた、同じ穴のムジナだろうと。言外にそう云われてオラクルは小さく肩を竦めて、そして笑い返した。
「ああ、うん。多分、そうだろうね」
軽く肩を叩かれて身体をずらす。オラクルの隣にオラトリオが収まった。触れた肩があたたかくて、オラクルは顔を綻ばせる。
まるでひだまりのようだ、と思うのだ。
この場所も。この時間も。このあたたかさも。
穏やかに、ゆっくりと時間が流れている。
この午後のひとときのような、過ぎ去れば忘れてしまうような小さな時間を心の底からいとしいと思う。
「っあ゛―――」
ベンチの背もたれに身体を預け、大きく伸びをしたオラトリオが笑いながら自分たちの上を指差す。
「見ろよ、すげー綺麗」
屈託のない声も、笑顔も。その肩に、髪に、落ちている光によく似ている。
「…うん、知ってる」
応えると、何だ、とさして残念そうにもなく肩をすくめたオラトリオが、先ほどのオラクルと同様目を閉じる。
「寝るなよ、オラトリオ」
「寝ねーよ、お前じゃあるまいし」
「寝てないってば」
くつくつと笑う振動がオラクルの肩も揺らして、単にからかわれているだけだと流石にオラクルも気付く。憮然として肩をぶつけると、たいして痛くもないはずなのに、いて、とオラトリオが呟いた。
それをさっぱりと無視して、オラクルは組んだ自分の脚の上に頬杖をついた。視界の真ん中に収まる噴水を見るともなし眺めると、相変わらずきらきらと光の粒を散らしている。
まぁいいか、と口には出さずに目を細める。

まるでひだまりのような。
こんな休息も、良いものだ、と。
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